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神戸地方裁判所 昭和43年(ワ)1710号 判決 1970年2月25日

原告

武内安平

被告

森江健二

ほか二名

主文

一、被告らは原告に対し、各自金六三万四六〇四円及び内金三一万五〇〇〇円に対する昭和四一年一月一四日より、内金二一万九六〇四円に対する同年九月一日より、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用を三分し、その二は被告らの連帯負担とし、その余は原告の負担とする。

四、この判決は、主文一項につき仮に執行することができる。

事実

第一、原告の申立

「被告らは原告に対し各自金一〇六万三七二〇円及び内金五〇万円に対する昭和四一年一月一三日より、内金三一万三七二〇円に対する同年九月一日より、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二、請求原因

一、事故の発生

原告は、昭和四一年一月一三日午後七時二〇分ごろ、神戸市葺合区熊内橋通三丁目一の五(熊内四丁目市電停留所そば)の西行車道上において、南側歩道より右停留所に向け歩行横断中、折柄西進してきた被告森江健二運転の小型乗用車(神戸五・に・五四八六、以下加害自動車という。)にはねられ、左腰部打撲傷、骨盤骨折、右下腿打撲傷、左胸背部打撲傷等の傷害を受けた。(以下本件事故という。)

二、被告らの責任

(一)  被告森江は、無免許で右加害自動車を運転し、しかも運転者は市電停留所付近においては徐行し、かつ、前方左右を注視し市電乗降者に対する安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠った過失により本件の事故を起こしたものであるから、民法第七〇九条により本件事故のため原告の受けた損害を賠償する義務がある。

(二)  被告佐藤治夫は、本件の加害自動車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであり、被告佐藤彪は右治夫の息子であって治夫より右自動車の使用を許され自己のために運行の用に供していたものであるから、右両名は共に自賠法第三条本文により、本件事故のため原告の受けた損害を賠償する義務がある。

(三)  仮に、被告彪が自賠法第三条の運行供用者に当らないとしても、同被告は本件事故の際右加害自動車の助手席に同乗し、被告森江が無免許であり運転技術が未熟であることを知りながら同人に運転を委ねていたのであるが、本件事故現場のような交通の頻繁な市街地を通行する際には運転資格をもつ同被告が自ら運転して事故の発生を未然に防止すべき義務がある。また、被告森江に運転させる場合においても、被告彪自身常に自動車運転者として必要な前記の注意を払い、被告森江に常時適切な助言と指導を行い、もって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるに拘らず、これを怠つた過失により本件事故の発生をみたのであるから、民法七〇九条により本件事故のため原告の受けた損害を賠償する義務がある。

三、原告の損害

(一)  喪失利益 三一万三七二〇円

原告は、本件事故当時扶桑ゴム工業株式会社に勤務し、一日平均一三六四円の賃金収入を得ていたところ、本件事故による傷害のため昭和四一年一月一四日より同年八月三一日まで二三〇日間勤務を休み療養した。その間賃金収入を得ることができず右割合による合計三一万三七二〇円の得べかりし利益を失つた。

(二)  慰藉料 五〇万円

原告は、前記傷害のため、昭和四一年一月一三日から同年三月二九日まで七六日間吉田外科病院にて入院治療を受け、さらに同年五月一〇日まで(実日数二六日)同病院にて通院治療を受けた。原告は既に体力気力の衰えた六〇才の高令であるため骨盤骨折等の重傷による苦痛打撃は甚だしく、右治療期間中言語に絶する苦るしみを味合つた。のみならず、神経痛ようの後遺症が残り寒気雨天等気候の変化により受傷部分に激しい疼痛をおぼえ、右症状は今後も悪化こそすれ快方に向うことはないと考えられる。よつて原告の右苦痛に対する慰藉料は金五〇万円が相当である。

(三)  弁護士費用 二五万円

被告らは、原告の前記損害の賠償に応じないので、やむなく弁護士に委任して本訴を提起した。そのため原告訴訟代理人に手数料及び報酬として少くとも金二五万円を支払う義務がある。

四、よつて、被告らに対し、原告の申立記載どおりの判決を求める。

五、被告らの主張する原告の過失は否認する。

第三、被告らの答弁及び抗弁

一、「原告の各請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求める。

二、請求原因事実につき

(一)  同一記載の事実中、原告の受けた傷害の部位、程度は不知、その余の事実は認める。

(二)  同二(一)の事実中、被告森江の注意義務及び無免許であつたことは認めるが、同被告が右注意義務を怠つた事実は否認する。同(二)(三)の事実は争う。

(三)  同三の損害はすべて争う。

三、(抗弁)

仮に、被告らに賠償責任があるとしても、原告においても、酒気を帯びて交通の安全を確かめないまま、左側車道に駐車中の自動車の間から突然車道上に飛び出してきた過失があるから、被告らの賠償額の算定につき原告の右過失を斟酌すべきである。

第四、証拠関係〔略〕

理由

一、事故の発生

原告主張の請求原因一の事故発生の事実は、原告の受けた傷害の部位程度を除き当事者間に争なく、原告が右事故によりその主張の傷害を受けたことは、〔証拠略〕により明らかである。

二、被告らの責任

(一)  〔証拠略〕を綜合すれば、被告森江は無免許で本件加害自動車を運転して西進し時速約四〇粁の速度で本件事故現場の手前に差しかかつたのであるが、その際既に右前方の熊内四丁目の市電停留所(安全地帯)に西行の市電が入つており、しかも西行車道の南側に二、三台の駐車中の自動車があつて左側歩道に対する見透しが十分でなく、かつ、当時は雨上りで路面はぬれており、霧がかかつていて全体に見透がよくなかつたことが認められる。右のような状況のもとで市電停留所の側方を通過しようとする自動車運転者は、市電に乗るため南側歩道から進路前方を横断する乗客のありうることを考慮して、安全地帯の手前で減速徐行し、市電の乗降客に危険を及ぼす虞のないことを確認したうえで通過すべき注意義務があるに拘らず、同被告は右注意を怠り同一の速力で警音器も鳴らさず同所を通過しようとした過失により、折柄右市電に乗るため南側歩道から安全地帯に向け横断しようとした原告に衝突したことが認められるので、同被告は民法第七〇九条により本件事故のため原告の受けた損害を賠償する義務がある。

(二)  〔証拠略〕を綜合すれば、本件加害自動車の所有者は同被告の父である被告佐藤治夫であるが、同人は右自動車の使用を被告彪に許容し、彪において自己の用途及び家庭の買物など家事用に使用していたこと、本件事故の際の運行は被告彪が友人と共にドライブのため六甲山を経て三宮方面に向う途中であつたことが認められる。そして以上の事実によれば、被告彪は本件加害自動車を自己のために運行の用に供していたものであり、被告治夫は右の運行を許容し、抽象的外観的には自己のため右自動車を運行の用に供していたものといわなければならないので、被告治夫、同彪の両名は共に自賠法第三条の運行供用者として本件事故のため原告の受けた損害を賠償する義務があるものと認める。

三、原告の損害

(一)  喪失利益

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故の当時神戸市長田区梅ケ香町一丁目所在の扶桑護謨工業株式会社に警備員として勤務し、一日平均一三六四円の給与を得ていたところ、本件傷害のため事故日から昭和四一年八月三一日まで二三〇日間勤務を休んで療養し、よつて右割合による合計金三一万三七二〇円の賃金収入を失つたことが認められる。

(二)  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により受けた前記傷害(左腰部打撲傷、骨盤骨折、右下腿打撲傷、右胸背部打撲傷)のため、事故日から昭和四一年三月二九日まで七六日間吉田外科病院(神戸市灘区原田通五丁目一の一)にて入院治療を、退院後も同病院にて同年五月一〇日までの間に実日数二六日の通院治療を受け、同年八月末日まで自宅で療養したこと、原告は明治三九年四月生れで事故当時の年令は五九才余であつたこと、昭和四一年九月一日より出勤しているが現在なお腰部に神経痛様の痛みがあり、仕事が夜警であることと相俟つて寒気の日、雨天の日などには苦痛を覚えること、かような事実が認められる。そこで原告の受傷以後の右苦痛に対する慰藉料は後遺症によるものを含め金四五万円と認める。

(三)  弁護士費用

弁論の全趣旨に照らし、原告が弁護士に委任して本訴を提起したことは、その権利擁護のため必要やむをえないものと認められるので、弁護士費用(手数料及び報酬)の内その相当額は被告らにおいて賠償すべきところ、被告らの賠償すべき弁護士費用の額は、本件事案の性質内容及び後記賠償認容額並びに日本弁護士連合会所定の報酬等の基準額に照らし金一〇万円と認める。

四、被告の抗弁(過失相殺)

〔証拠略〕を綜合して考察すると、被告は事故当日会社に出勤(午後八時より勤務)するため事故現場である熊内四丁目の市電停留所へ東より歩いてきたところ、折よく西行の市電が入つてきたので南側歩道から西行停留所(安全地帯)に向け横断しようとしたこと、その際歩道寄りの東側には二、三台の駐車中の自動車があり東方に対する見透しが妨げられていたこと、当時は雨上りで霧がかかつていて全体に見透しがよくなかつたこと、原告は横断前西行きの二台の自動車を見送つたが後続の自動車はないものと考え東方の安全確認を怠り急いで市電停留所に向け斜めに横断したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告の本人尋問における供述は信用しがたい。ところで本件事故は前認定のとおり主として被告森江の運転上の過失によるものであるが、しかし原告においても、右のような場合東方に対する見透しの利く地点に立止つて東方から西進する自動車がないかどうかを確認し、もし西進する自動車があるときは手を上げるなどして横断の合図を送り相手車が徐行または停止するのを待つて横断を開始すべく、また斜めに横断してはならない歩行者としての注意義務があるものというべきところ、原告は市電に乗り急ぐの余り右の注意を欠いた過失があるので原告の右過失を斟酌し、被告らの賠償すべき損害額は前記三(一)(二)の損害の各七割に当る額と認める。なお原告の本人尋問の結果によれば、原告は事故当日の午後三時か四時頃少量の飲酒をしたことが認められるけれども、酒気の結果右の注意を欠いたものとは認められない。

五、結び

よつて被告らは各自原告に対し、前記三(一)(二)の損害額の七割に当る金五三万四六〇四円、同(三)の弁護士費用一〇万円、以上合計六三万四六〇四円及び内金三一万五〇〇〇円(慰藉料)に対する昭和四一年一月一四日より、内金二一万九六〇四円(喪失利益)に対する同年九月一日より、各支払済まで年五分の遅延損害金を支払うべき義務があるものと認め、原告の本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求は理由がないと認め棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を仮執行宣言につき同法第一九六条第二項を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎)

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